病室で『看取る』ということ~Tさんのかかわりから大事にしたいこと~
高齢の終末期を迎える患者さんの旅立ちの時期に関わり、もう少し元の生活を続けることを目標にしつつも、叶わないこともあります。Aさんも肺の持病から肺炎を繰り返し、在宅生活をめざしたい気持ちで転院してきました。
『家に早く帰りたい』との焦りから、指先についている酸素飽和度モニターの先端をベッド柵に打ち付けるようなこともありましたが、退院は難しい状況でした。最後の時期をどうやったら穏やかに過ごせるのか…カンファレンスをしました。
生活歴や職業歴をたどり、細やかなことにこだわるA氏像が見えてきました。下済み時代を経て苦労して会社を立ち上げ一生懸命働いてきました。奥さんや娘さんにも先立たれて一人で生活し、お酒を飲むことが少ない癒しす。頼むと買い物をし、少しおしゃべりする知人だけが心を許せます。入院中は自由には会うことはできません。職員は側に座って自分の話を聞いてくれる人はいません。
Aさんの残された時間が少ないことも共有しました。『ベッドサイドで、少しでもお話を聞く時間をつくろう』『いつも声をかけてくれた知人とほんの一口お酒を飲めないだろうか?』チームで話し合いました。知人の方にも相談すると、『お酒が一番の楽しみ。もう一度でいいから飲んだら、飲めたらいいのにね。』と賛同して、娘さんも連れてお酒をもって会いに来てくれました。
普段は肺炎予防にとろみをつけた水を飲んでいただいていましたが、この日はそのまま少しずつお口に運ぶと、ごくりと飲んでお酒のボトルをじっとみて大きくうなずきました。知人は『ほんとにお酒の好きな人でね。病院でお酒を飲ませてくれるなんて…よかった…』
その後、旅立たAさん。数日前にスタッフに伝えた言葉があります。『俺はもうダメだ…。最後だと思うから、あんたと家族、幸せにね…』
はじめは、話しかけるのにも苦労しましたが、Aさんの苦労、家族への思いを『あきらめない』で聞けたことで、少し近づくことができ、これからも一人一人の思いに寄り添っていきたいと思いました。Aさんは奥さんや娘さんと再会できたかな?
2B病棟一同